山田太一「本当と嘘とテキーラ」

ひさびさの日記だ。

そして、ひさびさに山田太一ドラマを見た。

最近、あまり山田太一のドラマは見てなかったのだが、
今回のはなぜか、ひっかかって見た。

「本当のことを言うことは偉い」というような、
正論ではあっても、世の中そんな単純じゃないということで、
言うのも恥ずかしいことを主張する、
昔の山田太一ドラマを、
久しぶりに見ることができた気がする。

私が思春期の頃によく見ていた頃の山田太一ドラマは、
大人になるにつれて、すれてしまう価値観を、
揺さぶるセリフが多かった。

男たちの旅路」の鶴田浩二は特攻隊の生き残りで、
ドラマの中で若者代表の水谷豊を常に罵倒する。

(相棒の水谷豊だって、昔は若かった。)

例えば、戦争中に友人と一人の女をめぐって、
決闘して、その友人が特攻隊で死んでしまったから、
自分もその女の人を一緒になることはできなかった、
と言うと、若者が、そんな甘っちょろい話、誰も信じないよ、
みたいなことを言う。

すると、鶴田浩二が、えんえんと特攻隊の思い出話をして、
最後に甘っちょろくても、一生かけて実行すれば、
真実になるんだ、というように締めくくる。

早春スケッチブック」では、山崎努が、
死期が近いことを察して、
別れた妻の子(自分の子)に、
影響を与えようとする。

大学受験して、いい会社に入ってと考えていた息子に
「そんなのありきたりだ。くだらない人生を生きるな」
と罵る。

ほぼ、毎回、子供役の鶴見辰吾と、
別れた妻が再婚した相手のサラリーマンの夫の生き方を
罵倒し続けた。

見ている視聴者の大半の生き様を批判する、
そんなドラマが、今、あるだろうか?

その早春スケッチブックの時に
山崎努の愛人を樋口可南子が演じていた。

で、今回の「本当と嘘とテキーラ」だけど、
山崎努樋口可南子が、出ていれば、
山田太一ドラマファンとしては、
早春スケッチブック」を期待するじゃないか。

そして、期待を裏切らなかった。
「本当のことを言うことは偉い」のだろうか、
というテーマを2時間かけて描ききった。

本当のことを言った娘は、自殺した母親に
ほめられるどころか、逆ギレされるし、
嘘をついた社長は、本当のことを言った娘を
褒めても、自分は本当のことは言わない。

佐藤浩市は、娘に本当のことを言わせながらも、
自分はセミナーの講師で、デパートの店員に
嘘をつけという。

そして、言う。

「大人はゆっくり変わるんだ」

本当にひさびさに山田太一ワールドを
体験できてよかった。

また、こんなテーマをやってくれないかなあ。



【おまけ】
昔、山田太一さんのサイン会に行ったときに、
男たちの旅路」や「早春スケッチブック」みたいなドラマを
またやって欲しいとお願いしたところ、
「ああいう暗いドラマは、テレビ局が
やりたがらないんだよね〜」
とおっしゃっていた。

それから、山田太一は、老人の老いらくの恋とか、
ファンタジー系の小説とかが多くなって、
僕は山田太一から離れてしまった。

この系統のファン、多いと思うんだけどなあ。
(大学の先生とも「男たちの旅路」について、
 飲み屋で熱く語ったこともあるし、
 結構いるんですから)


【おまけ その2】
結末がお祭り、宴会(花見?)になるのは読めた。
早春スケッチブック」や「ふぞろいの林檎たち」の
パターンだ。

そういえば、「真夜中の匂い」っていうドラマや
「日本の面影」というのもあった。

あの頃がよかったんだよなあ。